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人生は動いたもの勝ち。女優・小島聖のヒストリー 

高橋千里

あこがれの人、がんばってる人、共感できる人。それと、ただ単純に好きだなって思える人。そんな誰かの決断が、自分の決断をあと押ししてくれることってある。20~30代のマイナビウーマン読者と同世代の編集部が「今話を聞いてみたい!」と思う人物に会って、その人の生き方を切り取るインタビュー連載【Lifeview(ライフビュー)】。

半蔵門のとある一角。都会の喧騒から少し離れて、木々に囲まれたビルの一室に彼女はいた。「いつかこんな女性になってみたい」と思えるほどの、美しくてやわらかな空気感を纏った人だった。

小島聖さん、42歳。子役時代から演技の世界を生き、映画やドラマなどに多数出演。現在は舞台にも活躍の場を広げるなど、実力派の女優として知られている。

しかし彼女には女優以外に、もうひとつの顔があった。

自然の中を歩くと、自分に戻れる

「登山に目覚めたきっかけは、30歳のときにふと思い立ってネパールでトレッキングをしたら楽しかったから。もうちょっと自然の中を歩いてみたいな、と思ったんです」

そのルーツは数十年前にさかのぼる。家族でキャンプに行ったり、小さな山に登ったりしていた幼少期。ご両親が名づけた“聖”という名前は、南アルプスの聖岳から由来しているらしい。彼女に自然のよさを教えてくれたお父様は、今はもうお亡くなりになっているが、それでも「自然について思いを巡らせると、父の存在は欠かせない」と語っている。

「私にとって自然の中を歩くことは、自分を解放すること。もやもやしていたことの辻褄が合って思考が定まったり、ごはんをおいしく食べられる時間でもあります。ひとことでは言い表せないですね」

自分を解放すること。簡単なようで難しいこの行為が、自然の中ならば思いきりできるという。それだけ解放されたくなる瞬間が多いのも、女優という仕事柄なのかもしれない。

「女優の仕事って、日常のようで非日常。演じている役と自分自身、どっちが本当の自分なのかわからなくなることがあるんです。その感覚が続くと解き放たれたくなりますね。特に舞台だと、本番の公演期間を入れると約2カ月近く別の人格を演じることになるから。次第にその役からも解放されたくなって、自然の中に飛び込んでリセットするんです」

本業である女優から少し離れて、登山をすることに躊躇や迷いはなかったのか。聞くと、彼女ははっきりと「迷いはなかったです」と答えた。

「深呼吸しているときや、なんでもないとき。生きているなぁと思えるし、いちばん私だなぁと感じる瞬間です」

ネパールの山々以外にも、アルプス山脈のマッターホルン、ヨセミテのハーフドーム、アラスカの荒野などを訪れた小島さん。彼女にとっては、自然を歩くときこそが「本来の自分を取り戻せる時間」なのかもしれない。

今だって、1年ずつ悩みながら生きている

彼女自身が、山々を歩く記録を綴った初エッセイ『野生のベリージャム』が今年3月に発売された。タイトルの『野生のベリージャム』は、本の中のひとつの章から抜粋。アラスカの荒野に自生しているサーモンベリーやブルーベリーで作ったジャムのレシピが掲載されている。小島さんの中では、自然の中を歩くのと同じくらい、“食べること”も人生において重要な意味を持つという。

「食べることって、生きるエネルギーに直結すると思うんです。食べないと元気が出ないのはそうなんですけど、人とのコミュニケーションをとるための手段でもあるから。お腹がすくからご飯を食べるというより、誰かと会って時間や会話を共有するために一緒にレストランに行く。そこでおいしいものを囲みながら生まれる会話は、きっと普段より楽しいものになるはず。そんな“社交としての食”も、私は大切にしています」

話を聞けば聞くほど、誰もが当たり前のように感じていることを繊細に受け止め、ていねいに生きている小島さん。それでも彼女自身も私たちと同じ20~30代のころ、結婚や仕事で悩むこともあった。

「その年齢ごとに悩むことはいろいろありますよね。今だって私の進んでいる道が正しいかわからないし、1年ずつ悩みながら生きています」

彼女は少し困ったように笑いながら、小さく言葉を紡いでくれた。それでもひとつ言えるのは、人生は「動いたもの勝ち」だということ。

「今の時代って、パソコンやスマホ上で簡単に情報を得られるし、コミュニケーションもとれますよね。でも私はそれをあまり健康的だと思っていなくて。『今日は天気がいいから外に出てみようかな』『気になる展示に行ってみようかな』など実際に行動をすることが、悩みを解決するきっかけになると思います」

本業だけにとらわれず自然の中に飛び出すことで、“本当の自分”を見つけられた彼女だからこそ言えること。毎日朝から晩までスマホばかり眺めてしまうけど、明日はちょっとスマホから離れて、気になっていた場所に行ってみようかな。

エッセイの出版をはじめ、イベントやブログでも、自身の経験や日々の小さな出来事を綴り続ける小島さん。これからも多くの女性たちに、一歩踏み出すきっかけを与えてくれるはずだ。

『野生のベリージャム』小島聖

大自然の中を歩くことに魅せられ、この10年、海を越えてさまざまな地を旅してきた女優・小島聖さんが、アウトドアフィールドの中で限られた食材で料理を楽しみ、ともに旅する人と食卓を囲んだ食の記憶を中心に、これまでの旅を綴った初のエッセイ集。

『野生のベリージャム』(青幻舎)発売中/2,000円+税

(取材・文:高橋千里/マイナビウーマン編集部、撮影:洞澤佐智子)

※この記事は2018年06月21日に公開されたものです

高橋千里

高橋千里(たかはし ちさと)

2016年にマイナビ中途入社→2020年までマイナビウーマン編集部に所属。タレントインタビューやコラムなど、20本以上の連載・特集の編集を担当。2021年からフリーの編集者として独立。『クイック・ジャパン/QJWeb』『logirl』『ウーマンエキサイト』など、紙・Webを問わず活動中

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